令和6(2024)年報酬改定|訪問介護への影響は?

令和6(2024)年度報酬改定、処遇改善加算はどう変わる?

令和6(2024)年度の報酬改定に向けた訪問介護についての3つの論点を、厚生労働省の資料をもとに、わかりやすく説明します。

訪問介護に関する3つの論点

令和6(2024)年度の報酬改定に向け、第230回社会保障審議会介護給付費分科会(令和5年11月6日)が開催されました。訪問介護についての内容は以下の通りです。

  • 看取り期の利用者への対応
  • 同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬
  • 中山間地域等における移動距離等を踏まえた報酬の見直し

この記事では11月6日の厚生労働省の会議資料をもとに、この3つの論点をわかりやすく解説します。

なおこの会議では「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」についても議論されていましたが、12月4日の第234回分科会では、少なくとも令和6年での創設には慎重な議論となっています。

参考:第230回社会保障審議会介護給付費分科会資料|厚生労働省

参考:複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)(第234回資料)|厚生労働省

看取り期の利用者への対応

看取り期の利用者に対する訪問介護サービスは、現在のところ介護報酬上の特別な評価はありません。しかし実態としては約4割の事業所が実施しており、これらのサービス提供や事業所の体制構築をどう評価するかが論点となっています。

概要

看取り期のサービス提供を評価する方法として、以下の対応案が出されています

  • 特定事業所加算の重度者対応要件に、新たに「看取り期にある者」を追加してはどうか
  • 特定事業所加算について、現行の区分の整理統合と併せて要件を見直してはどうか

解説

看取り期の訪問介護について

看取り期とは、医師が一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがないと判断した者と定義づけられています。

厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン」では、本人・家族などと多専門職からなる医療・ケアチームが十分に話し合うこととされており、ケアに関わるケアマネジャーや介護福祉士などの役割も重要です。

参考:在宅終末期ケアにおける 介護専門職と訪問看護師との連携|国立がん研究センター

資料を見ると、令和3年度のデータで39.8%の訪問介護事業所が看取り期の利用者にサービス提供していますが、看取り期のサービス提供では通常時に比べ、訪問介護員やサービス担当責任者、ケアマネジャー、訪問看護や訪問診療医といった医療関係者など、職種間での報告・相談回数が増えています。また38.4%の事業所が看取り期のサービス提供のために訪問看護師との連携体制を構築しています。

筆者も現在は訪問看護ステーション管理者ですが、看取り期の利用者について訪問介護事業所とのやりとりは多く、病状や身体状況の変化、利用者家族からの相談内容をこまめに共有しながら連携してサービスを提供しています。

こうした状況から、令和3(2021)年度にも、看取り期の利用者に訪問介護を提供する場合においての2時間ルールの運用が弾力化されましたが、今回、さらなる対応の充実と適切な評価のための方法が検討されます。

訪問介護特定事業所加算の算定状況について

特定事業所加算は質の高い人材の確保や、ヘルパーの活動環境の整備、中重度者への対応など質の高いサービス提供を行っている事業所を評価するものです。しかし算定していない事業所が50.7%と最も多く、また加算を算定している事業所でも(Ⅱ)が最も多く28.2%となっています。

加算(Ⅱ)と加算(Ⅰ)の大きな違いは「利用者のうち、要介護度4、5である者、認知症高齢者の日常生活自立度のⅢ、Ⅳ、またはMに該当する者、たんの吸引等を必要とする者の占める割合が20%以上である」という重度者対応要件(11)です。

画像引用:「訪問介護・訪問入浴介護(改定の方向性)」P.15|厚生労働省

特定事業所加算の算定が進まない背景の一つにはこの「重度者対応要件」を満たす難しさがあると考えられます。

要介護認定は介護サービスの必要度を時間で表すもので、病気の重さと要介護度の高さが必ずしも一致しません。そのため加算要件の「中重度者(要介護度4、5)への対応」が実態と乖離しているのではないかという議論も出ています。

また痰吸引ができる訪問介護員の育成など、訪問介護員の質の向上へ向けた取り組みも求められます。

これらを背景として、看取り期のサービス提供を適切に評価できるよう、特定事業所加算の重度者対応要件に「看取り期にある者」を追加することが検討されています。また併せて訪問介護員の質の向上に向けた取り組みの推進や事業所の適切な評価の観点から、現行の区分を整理統合し要件を見直す方向での議論もされています。

参考:「訪問介護・訪問入浴介護(改定の方向性)」|厚生労働省

同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬

サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)などに併設する訪問介護事業所が、そのサ高住の入居者だけでなく、地域に住むその他の対象者にもサービス提供をすることを促進する方法が検討されています。

概要

サ高住などに併設されている訪問介護事業所では、利用者の一定割合以上が併設するサ高住の入居者だった場合に「同一建物減算」が適用されます。今回の報酬改定では、この点について、さらに適正化を図る方針が提案されました。

解説

訪問介護事業の指定基準では、事業所と同じ建物に住む利用者にサービス提供する場合、その建物以外に住む人にもサービス提供をするよう努めなければならないとされています。

サービス付き高齢者向け住宅に併設された訪問介護事業所から、そのサ高住の居住者にサービスを提供する場合と、一般住宅に居住する利用者に対するサービスを提供する場合とでは、距離的・時間的なコストに差があります。

それらを踏まえた上で事業所のサービス提供を適正に評価するため、平成24年には「同一建物減算」が設けられました。

一方、令和5年5月分の介護給付費等実態統計を見ると、同一建物減算の算定実績がある訪問介護事業所の半数以上が、事業所と同じ建物などに入居する利用者だけにサービスを提供しています。

併設するサ高住などの入居者に対するサービス提供割合が増えると、平均移動時間や距離は少なくなり、訪問件数は増加します。令和3年度の決算では、同一建物減算に該当しない事業所より、減算に該当する事業所の方が収支差率(利益率)が高いという結果になりました。

現状では公平性に欠けるとの関係団体からの指摘、また利用者が同一建物に集中している場合には一層の減算を行うことで適正化を図るべきとの財務省からの指摘もあり、同一建物減算については、更に厳しい方向での見直しが予想されます。

参考:「訪問介護・訪問入浴介護(改定の方向性)」|厚生労働省

中山間地域等における移動距離等を踏まえた報酬の見直し

中山間地域などでも必要な訪問介護サービスを確保できるよう、事業所の取り組みをどのように評価するかが論点となっています。

概要

豪雪地帯をはじめとした中山間地域などに居住する利用者にサービスを提供した場合の加算について、現行の加算要件などの見直しが検討されています。

解説

現在の介護報酬では、サービスの確保が難しい中山間地域などでのサービス提供を加算(特別地域加算、中山間地域等における小規模事業所加算、中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算)で評価しています。これらの加算は、たとえば離島振興対策地域、豪雪地帯及び特別豪雪地帯、過疎地域といった各加算が指定する地域でのサービス提供が対象です。

一方で加算の対象地域ではなかったとしても中山間地域などでは訪問介護事業所が少ないため、利用者宅への移動距離が長い・移動に時間がかかるなど事業所運営がどうしても非効率になってしまいます。

しかし調査研究の結果を見ると、中山間地域などの事業所は他の地域に比べて移動距離や時間を理由にサービス提供を断るケースは少なく、可能な限り必要な方にサービス提供をしていることがわかります。

そのため現状では先述の加算の対象となっていない事業所についても、その取り組みをどう評価するかが論点となっています。

中山間地域での事業運営課題

利用者宅への訪問に関する課題の調査結果では、訪問介護事業所全体だと「訪問介護員の高齢化に伴い移動の負担・不安」「天候不良時の負担・不安」「ガソリン代の負担」などの回答が多くなっています。それに対して以下の表で地域区分Ⅱ(中山間・全域)として示される地域では「悪路が多い」「雪かきの負担」といった課題も高い割合を示しています。

画像引用:訪問介護・訪問入浴介護(改定の方向性)P.37|厚生労働省

また同じく地域区分Ⅱ(中山間・全域)では、事業継続や事業運営の課題として「地域の要介護者の減少」「地域内の連携できる職種や他サービス、社会資源の少なさ」などの割合が、他の地域より高い傾向にありました。

このように中山間地域などで訪問介護事業所を運営するには特有の困難があるため、これらの地域でサービス提供をする事業所をどう評価するか、調査結果をもとに地方自治体とも調整しながら詳細な要件などが練られていくでしょう。

制度改正により、どの地域であっても住み慣れた我が家で最期まで暮らすために必要な在宅サービスが切れ目なく提供できるよう、地域によるサービスの格差を少なくすることが期待されています。

参考:「訪問介護・訪問入浴介護(改定の方向性)」|厚生労働省

まとめ

訪問介護に関する改定の方向性が示され、具体的な内容はこれから検討されていきます。訪問介護の質向上と事業継続のためにも、今後も注目していきましょう。

厚生労働省の資料には、より詳しい情報が記載されています。本記事と併せて、そちらもぜひご覧ください。

参考:「訪問介護・訪問入浴介護(改定の方向性)」|厚生労働省

介護ソフト導入の手引き

執筆:大和田陽子
看護師 / ケアマネジャー

介護保険制度開始前から介護業界で管理者や看護師として勤務。医療・福祉系の株式会社では、コンプライアンス部次長として介護および障害福祉事業の実地指導対応を担当。現在は訪問看護ステーションで管理者を務める。

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